卸売(おろしうり)ってどんな仕事?青果物卸売業者さんの熱き想い
船橋市場では様々な人が働いています。
今回は読者の皆さんにとってあまり馴染みが無いかもしれない、「卸売(おろしうり)業者」にスポットをあててみました!
卸売業者は生産者から品物を仕入れ、主に市場内にある「仲卸業者」に販売をしています。そのお店から、小売店や飲食店または一般の消費者が品物を購入し市民の手に渡ります。普段消費者が卸売業者とやり取りをすることはありませんが、彼らの仕事は市場に無くてはならない重要な仕事です。
市場で働く青果物卸売業者、長印船橋青果株式会社の工藤哲生さんに詳しくお話をうかがいました。
市場は早朝から大忙し!
2012年に船橋市場の卸売業者として長印船橋青果株式会社の事務所が入り、今年で6年目。この春に入社9年目となる工藤さんはこの市場で日々働いています。
事務所は、船橋市場の正門すぐの管理庁舎2階にあります。
市場の朝は、とても早くにスタートします。社員さんは4時半から5時半には出社、空はまだ真っ暗で、この時期は空気が痛いほどに冷える時間帯です。
果実部に所属する工藤さんは、今の時期は静岡のみかんを担当しています。
日頃から生産者を束ねる農協の担当者とやり取りをしており、朝は産地から届いたみかんや青果物を受け入れます。荷物を確認し並べると、6時からは青果物卸売場で仲卸業者に販売をします。
市場と言えばセリのイメージが強いのですが、青果物の場合、実際には多くが「相対(あいたい)販売」です。これは売り手と買い手が事前に商談をして取引する方法で、全体の7~8割がこの方法を採用しています。
「昔は八百屋さんが多かったため、値段を競い合う競売が当たり前でした。
セリのガチャガチャした声が飛び交う様子から、”やっちゃ場”と言われていた時代です。
私が入社した9年前もその名残がありましたが、今はスーパーなどのバイヤーが増えたことで、セリを行わずに商談という形が増えてきているんです」
9時頃に販売がひと段落すると、食事を挟んで事務処理を行います。値段の報告や電話対応、人によってはここから産地に足を運ぶ人もいるそう。業務が終わるころは暗くなっていることも珍しくないほど、忙しい毎日を送っています。
一年を通じて旬を感じられる仕事です
果実部に所属している工藤さんですが、季節ごとに担当する青果物が変わります。
7人いる果実部のうち、現在旬のみかんを扱っているのは4人。それぞれ異なる産地を担当します。
3月ころまでみかんを販売したら、次はビワを扱い、夏はスイカやもも、プラム、秋にはぶどう、時には何品目も同時に扱うこともあるそうで、一年があっという間に過ぎていくと言います。
商談を成功させるために大切なのは、産地の情報をきちんと得て作柄を見極めること。果物は、時間をかけて花が咲き実がなります。育ち具合は天候などにも左右されるため、作柄は毎年同じというわけではありません。
「仕事を始めた頃は、品目が多くそれぞれ特徴が異なることで、混乱することもありました。商談で失敗をしたこともあります。
でも今は、担当する青果の仕事を自分で完結できることは、個人事業主のようだと捉えています。
自分にしかできない仕事ってことですから、やりがいがありますよ」
そう言って、にこりと笑う工藤さん。
「私が担当する静岡のみかん、美味しいですよ。ぜひ買って味わってみてください」
人が好きだったので、この仕事を選びました
卸売業者は人と人との橋渡しの役割があり、信頼関係が業務に影響します。
工藤さんがこの仕事を選んだ理由は、「人が好きだから」!
話すことは不得意だったそうですが、人と接する業務に興味があり、身近な食品を扱うこの仕事は面白そうだ、と感じたと言います。卸売業については仕事を始めてから一から覚えたのだとか。
「新人の頃は、毎日頭を下げることばかりでした。
でも、この人だからこの仕事をお願いしたい、この人からだから買おう、そう思われたらやっぱり嬉しいんですよね。
人間臭さを楽しめるかどうか、それがこの仕事を続ける秘訣。
これから先、自分のファンをどんどん増やしていければいいなと思います」
工藤さんと話せば話すほど出てくる、仕事への想い。穏やかな様子に見え隠れする熱意を感じ、思わず話に引き込まれてしまいました。
船橋市場、行政と一緒に盛り上げています!
工藤さんは船橋市場で働くようになって、船橋市や市場に関わる人が「みんなで市場を盛り上げていこう」という雰囲気であることに刺激を受けたと言います。
偶数月の第一土曜日の午前中に行われる「ふなばし楽市」、市が毎年開催している「農水産まつり」、また定期的に行われている「わくわく市場探検隊」は子どもたちに大人気の催しです。
今後も工藤さんは青果物卸売業者として、市場発展に大きく貢献していくに違いありません。
工藤さんの仕事は、直接消費者と関わることはありません。しかしふと八百屋さんで手に取った野菜、今日あなたが口にした果物も、彼ら卸売業者の仕事があってこそ味わえるもの。美味しい食材がこれまでどんな旅をしてきたのかを辿ってみると、そこには壮大なエピソードがあるのです!